歴史
タイ式マッサージは、タイ語で「ヌアボーラン」といいます。マッサージを意味する言葉「ヌアット」と、伝統を意味する言葉「ボーラン」から成ります。
タイ式マッサージの歴史は、2500年前にさかのぼります。インドからタイへ仏教が伝来するのと同時に、インドのアーユルヴェーダが元となる医学も伝わり、タイ伝統の医学となりました。その後1800年代に、タイ医学の医学書が、わずかですがワットポーの石碑に刻まれました。そこには、「SEN」も描かれていました。「SEN」とは、人体に流れるエネルギーラインのことで、タイ式マッサージは、このエネルギーラインを刺激することで体調を整えていきます。
現在タイにおけるタイ式マッサージは、日本の厚生省にあたる衛生省が公認する医療であり、治療技術でもあります。しかし日本では、このタイ式マッサージは医療としては認められていません。
創始者シバゴ
タイ式マッサージの創始者は、インドのビンビサーラ王に仕えていたシバカ・クマールバッカというインド人医師です。現在のタイでは、シバゴと呼ばれ、「医学の父」として尊敬されています。
シバゴは、ブッダが中心となっていたサンガという仏教僧集団の筆頭医師です。仏教僧集団では、バター、油、魚、豚、果物、塩を用いて、熱病、眼病、足のひび割れ、皮膚病などを治療してきました。関節の痛みやひびわれには、オイルを使いました。これがタイ式マッサージの始まりであるともいわれています。シバゴは、タイ式マッサージだけではなく、ハーブなどの薬草を使用した癒しの力も伝えています。
シバゴは、仏教の経典「四部律」にも登場しています。柱に子供をくくりつけ、お腹を切開して腸捻転症を治し縫合した話。頭痛の患者に多量の塩分の食事をとらせ、酒で酔わせ、頭蓋骨を開いてバターと蜜で脳を洗った話。また、香や油でブッダを治療した話などが書かれています。
方法
タイ式マッサージは、「受身のヨガ」、「2人で行うヨガ」とも表現されます。
通常のタイ式マッサージの方法は、「SEN」というエネルギーラインが6本集中している足からマッサージを開始します。足の部分だけを1時間ほどマッサージし、それから腕、腰、背中、首とへとマッサージする部位を上げ、温めていきます。温まってきたら、ストレッチを始めます。ゆっくりとした呼吸方法でマッサージし、日常使っていない筋肉を刺激し、凝り固まっっていた全身をやわらかくほぐしていきます。
ベッドではなくマット1枚で行うタイ式マッサージは、マッサージする側も自身がストレッチをしながらの態勢で行ったり、ツボ同士を押し当てたりします。このためタイ式マッサージは、「2人で行うヨガ」ともいわれ、受け手だけでなく、もみ手側の健康にも良いという特徴があります。
通常は、全身の気の流れを促進すると、血行が良くなります。
SEN
「SEN」とは、人体を流れる10本のエネルギーラインのことです。タイ式マッサージは、この「SEN」を刺激して行います。「SEN」は、目に見えないラインのため確認はできませんが、確実に作用します。一般的に「気」と呼ばれるものが、「SEN」です。このエネルギーラインは、インドのマッサージであるアーユルヴェーダにもあります。タイ式マッサージが仏教と共に伝わり、インドの「ヨガ」の影響を受けていることも明らかです。
「SEN」の6本が足にあるため、タイ式マッサージは、足から始めます。それぞれの「SEN」には、セン・スマナ、セン・ピンカラ、サハサランシなどの名前があります。セン・スマナは喘息や風邪、セン・ピンカラは鼻や頭痛、サハサランシは歯痛や目の充血、胃腸病などの症状に作用します。
タイ式マッサージでは、体の部分の不調によって、その症状に作用する「SEN」を刺激して医療を行います。
ワットポー
タイ式マッサージの医学書は、ワットポーの石碑に残されています。ワットポーは、ラーマ1世が1788年に建てました。ラーマ3世が建てた、全身金箔のブロンズ製のブッダの仏像が横たわっているお寺としても有名です。当時、タイ式医学を学ぶ知識人や仏教の僧侶などが、その知識をワットポーの柱に刻み、参拝者がそれを見て自ら学んでいました。
現在もワットポーでは、柱の学問に関する記述やヨガのスタイルをした像を見ることができます。また、タイ式医学から発生したタイ式マッサージの学校だけが残っています。ワットポーの敷地内には、タイ式マッサージの最高機関であるワットポーマッサージスクールがあり、マッサージ師への技能証明書や、証明書を発行する権利を、マッサージインストラクターに発行しています。またワットポーには、タイ式マッサージを受けられる施設もあり、常に混雑しています。
インドのアーユルヴェーダとタイ式マッサージ
アーユルヴェーダは、世界保健機構でも病気予防の医学として正式に推奨されています。アーユルヴェーダの語源は、生命を意味するサンスクリット語の「アーユス」と、科学を意味する「ヴェーダ」です。アーユルヴェーダは予防医学であり、自身の体質を知り、病にならない体を作り出すことを基本にしています。体を構成するエネルギーを「ドーシャ」と呼び、「ドーシャ」が乱れると病気であると判断します。ドーシャには「ヴァーダ」「ビッタ」「カバ」という3つの生命エネルギーが含まれており、3つのエネルギーのバランスが乱れると病になると考えられています。
タイ式マッサージは、アーユルヴェーダの考えの中のヴァーダに働きかけます。ヴァーダは、筋肉組織の動き、神経の伝達、心臓の拍動などのエネルギーとして作用し、風と空で表現されます。軽、動、速の特徴をもちます。ヴァーダのバランスを崩すと、腰痛、大腸疾患、頭痛、脳卒中、狭心症、冷え性、パーキンソン病などを引き起こす原因となります。タイ式マッサージでは、関節や筋肉をゆっくりストレッチさせることで、ヴァーダのエネルギーを刺激し、病の治癒と予防をはかっています。
マッサージを受けてはいけない時
タイ式マッサージは、エネルギーラインを刺激することによって、血液とリンパの流れを良くして効果を出します。そのため、体に負担をかけてはいけない健康状態のときは、マッサージを受けることが逆効果になってしまうので、注意しなくてはなりません。
次のようなときは、タイ式マッサージは控えるのが賢明です。
・風邪をひいているとき:タイ式マッサージによってリンパ液の流れが良くなると、風邪のウイルスがリンパ球の攻撃から逃れ、悪化する可能性があります。
・生理中のとき:タイ式マッサージを受けると新陳代謝がよくなり、出血が増える可能性があります。
・飲食後:血液の流れが内臓へと集中しているため、飲食後すぐにタイ式マッサージを受けると、内臓に負担をかけてしまいます。1時間以上はあけるのが良いでしょう。飲酒後も避けたほうが無難です。
・外傷があったり熱などがある人も、注意が必要です。
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